【フェリーとバイク】紀伊半島バイクキャンプ旅。川湯温泉で地球と繋がる2泊3日

この記事は、私が愛車である200ccのオフロードバイクに跨り、伊勢湾をフェリーで渡って紀伊半島の深い山々を2泊3日で駆け抜けた、再生と対話の記録です。

リエゾン区間を越えて、伊良湖岬へ

旅の始まりは、正直に言って「我慢」の連続だ。 愛車・SUZUKI SX200にとって、退屈な東名高速を走り続ける時間は、ラリーでいうところの「リエゾン(移動区間)」に他ならない。

200ccのオフロードバイクで高速の風圧に耐え続けるのは、都会でのデスクワークで固まった体には堪える。指先に残るエンジンの細かな振動をやり過ごしながら、修行のような時間を経てようやく辿り着く伊良湖岬。そこが、私にとっての本当のスタートラインだ。

伊勢湾フェリー鳥羽ゆき乗り場で乗船を待つバイク。バイクキャンプで紀伊半島へ渡るフェリーターミナル
ここから伊勢湾フェリーで鳥羽へ。本当の紀伊半島バイクキャンプ旅の始まり。

フェリーの甲板で「無」になる

伊勢湾フェリーのランプウェイを、バイクのタイヤが叩く。その鉄板の音を聞くと、ようやく重いリエゾンから解放された実感が湧く。

船が出航すると、私は迷わず甲板へ出る。潮風に吹かれながら、何も考えずボーっと水平線を眺める55分間。飛行機や高速道路にはない、この「空白の時間」こそが、日常の澱を洗い流すために必要な儀式なのだ。

遠ざかる陸地とともに、高速走行の緊張感が、ディーゼルエンジンの心地よい振動に溶けて消えていく。

伊勢湾フェリーで紀伊半島へ向かう航路。船の後方に広がる海と遠くの陸地
伊勢湾フェリーのデッキから。ぼーっと海を眺める。

パールロードの風と、大滝峡の静寂

鳥羽港に接岸し、再びSX200に火を入れる。 バイクに跨がり、鉄板のランプウェイを下っていくとき、ヘルメットの中で自分の顔が自然と笑顔になっているのを感じる。 いよいよ、待ちに待った「実戦」の始まりだ。

まずはパールロードへ。リアス式海岸の絶景を見下ろしながら、小気味よく右へ左へとバンクさせる。高速道路で強張っていた体が、ワインディングを駆け抜ける快感でしなやかさを取り戻していく。

パールロードから眺める伊勢湾の景色。海に浮かぶ島々と海岸の町
パールロードから見下ろす伊勢湾と志摩の島々。

初日の宿に選んだのは、三重県大紀町にある大滝峡キャンプ場。ここは清流、大内山川のせせらぎが間近に迫る、静かな谷あいの野営地だ。

焚き火台も持たないシンプルな設営を終え、暮れなずむ谷あいでバーナーに火を灯す。飯を炊き、カレーを準備するこの音は、今日一日の移動を終えた安心感そのものだ。

しかし、その賑やかな音も調理の間だけ。火を消せば、深い静寂が戻ってくる。耳に届くのは、ただ静かに響く清流のせせらぎ。その音が、日常の喧騒を忘れさせ、深い安らぎを染み込ませてくれる。

大滝峡キャンプ場の林間サイトに設営したテントとバイクSX200
紀伊半島ツーリング途中、大滝峡キャンプ場で一泊

2日目、十津川の吊り橋が呼び覚ます、五感の刺激

翌朝、紀伊半島の複雑な地形を縫うように走る。 この半島を旅していると、日本は本当に山深い国なのだということを肌で感じる。どこまでも続く深い緑の重なり、険しい峠道。

そんな山の中、寄り道したのは「谷瀬の吊り橋」だ。バイクブーツの硬い底で踏みしめる、細い板の心許ない感触。 揺れるワイヤー、足元に広がる十津川の深い緑。鈍っていた生存本能が、この不安定なスリルによって鮮やかに呼び覚まされる。安全な都会の日常では決して味わえない、この刺激が心地よい。

十津川村の谷瀬の吊り橋。紀伊半島バイクキャンプツーリング途中の風景
十津川村の谷瀬の吊り橋。深い谷に架かる日本有数の長い吊り橋

川湯温泉、地球の熱と「叶わぬ夢」を抱く旅人

旅の締めくくりは、和歌山県の田辺川湯キャンプ場へ。この川湯は全国的にも珍しい「河原を掘れば温泉が湧き出す」という天然の癒やしスポットで、以前から一度自分の手で湯船を作ってみたいと切望していた場所だ。

近くにある河原を掘って作る自分だけの露天風呂と、公衆浴場をハシゴして旅の疲れを癒やす。

夜、テントサイトの空いている空間に、誰からともなく人が集まり、自然と輪ができた。その中に、定年後に軽自動車で全国を旅しているという高齢の男性がいた。

「本当は、君たちみたいにバイクで回りたかったんだ。でも家族に猛反対されてね。仕方なくこれ(軽)で旅をしているけれど、やっぱりバイクの皆がうらやましいよ」 ランタンが照らす輪の中で、彼は愛おしそうに私たちのバイクを眺めていた。

その「叶わなかった夢」の重さを聞きながら、今、自分がSX200と走れていることの自由を、改めて噛み締めた。

リエゾンがあるからこそ、旅情は深い

SX200という小さな相棒と駆け抜けた2泊3日。 高速道路の我慢も、船の上の静寂も、山深い紀伊半島の風も、そして夜の語らいも。そのすべてが、日常で眠っていた感覚を芯から叩き起こしてくれた。 効率と快適性だけを求めれば見落としてしまう何かが、バイク旅の路上には、確かに詰まっている。

あわせて読みたい【17歳の北海道】自転車で旅した3週間、地平線と牛乳の味に教わったこと

【20代のバイクキャンプ旅】200ccのバイクで林道を走り、土の匂いの中で自分を肯定した日々

コメント