キャンプへ行くと、「せっかく来たのだから夜更かしをしよう」と考える人は多いだろう。焚き火を囲み、星空を眺めながら語り合う夜は、キャンプの楽しみのひとつである。
それでも私は、夜9時頃になると迷わずシュラフへ潜り込む。「もったいない」と思ったことは、ほとんどない。
むしろ私がもったいないと感じるのは、朝遅くまで寝てしまうことである。この考え方は、最近になって身についたものではない。
高校時代のワンダーフォーゲル部、自転車やバイクで旅をしていた頃、そして今のキャンプまで、ずっと変わらず続いている習慣なのだ。
この記事では、高校時代の登山から旅、そして現在のキャンプまで続けてきた「夜9時に寝る習慣」が、どんな体験から生まれたのかを書いている。
朝早く起きることでしか出会えない景色や時間を知れば、「今日はもう寝ようかな」と思うキャンプがあってもいい。そんな朝の魅力を伝えられたらと思う。
山で教わった早起きは、命を守るためだった
高校時代、私はワンダーフォーゲル部に所属していた。縦走では、次の宿泊地へ午後2時頃には到着する行動計画を立てるのが当たり前だった。
最初は「なぜそんなに早く着く必要があるのだろう」と思った。しかし、その理由は山へ行くたびによく分かった。
山の天気は午後になると崩れやすい。雨が降れば岩は滑りやすくなり、ガスが出れば道も分かりにくくなる。予定どおり歩けなくなることも珍しくない。だから朝早く出発し、時間に余裕を持って歩く。余裕があるからこそ、安全に行動できる。
山での早起きは、朝日を見るためでも、爽やかな気分になるためでもなかった。命を守るための行動だったのである。
その結果として、早起きした者だけが見られる景色もあった。山の向こうからゆっくり昇る朝日。冷たい空気。誰も歩いていない登山道。
それらは努力して探した景色ではなく、安全な行動を続けた結果として与えられたご褒美だった。
北海道を旅して知った「急がないための早起き」
高校時代の夏休みに、自転車で北海道を三週間旅したときも、この習慣は変わらなかった。朝早く起き、テントを片づけ、できるだけ早く走り始める。
それは距離を稼ぐためではない。時間の余裕をつくるためだった。
旅をしていると、「あの丘まで行ってみよう」「あの林道へ入ってみよう」と思う瞬間がある。早く出発していれば、そんな寄り道を気軽に楽しめる。景色のいい場所で自転車を止め、ぼんやり空を眺める時間もある。
予定になかった温泉を見つけたら、汗を流してから次のキャンプ場へ向かうこともできた。25歳になってバイク旅へ変わっても考え方は同じだった。
北海道には魅力的な温泉が数え切れないほどある。夕方になって時間がなくなれば、温泉を諦めてキャンプ場へ急ぐしかない。しかし朝早く出発していれば、その必要はない。
温泉でゆっくり体を温め、売店で牛乳を飲み、のんびり出発しても十分に目的地へ着ける。早起きとは急ぐことではない。その日を自由に使う時間を、自分へプレゼントすることだった。
※高校時代に北海道を自転車で旅した思い出は、「北海道を3週間自転車で旅して分かったこと|効率を手放した先にあった本当の贅沢」で詳しく書いている。
今のキャンプでは「誰もいない朝」が一番の楽しみ
今は旅よりも、一か所でゆっくり過ごすキャンプが多くなった。移動しないのだから、朝早く起きる必要はないのかもしれない。
それでも私は夜9時頃には眠る。夜空なら夕食のあとでも十分眺められる。焚き火も数時間楽しめば満足だ。
その代わり、翌朝には夜更かしした人が見ることのできない景色が待っている。秋の道志の森キャンプ場。テントを出ると、空気は思わず背筋が伸びるほど冷たい。足元へ目を向けると、落ち葉が白く縁取られていた。

夜のあいだに降りた霜が、紅葉を静かに包んでいる。太陽が高くなる頃には消えてしまう、一瞬だけの景色である。
池の周りまで歩いてみる。昼間は子どもたちの声が響き、多くのキャンパーで賑わう場所なのに、この時間は人影がほとんどない。
水面は鏡のように穏やかで、聞こえるのは鳥のさえずりだけだった。

私はこの時間が好きである。誰もいないキャンプ場をゆっくり歩き、静かな朝を体いっぱいに感じる。そのために夜9時に寝ていると言ってもいい。
静かな朝だから描ける景色がある
私はキャンプへ行くと、小さなスケッチブックを持っていく。荷物になるほど大きなものではない。パステルを数本とスケッチブックだけで十分だ。
本栖湖のキャンプ場でも、朝の静かな時間に富士山を描いたことがある。昼間になると人が増え、湖畔を歩く人や写真を撮る人も多くなる。もちろん、それもキャンプ場らしい風景である。
しかし私は、人の視線を気にしながら絵を描くのが少し苦手だ。誰かに見られていると思うだけで、落ち着かなくなってしまう。だから朝がいい。
まだ誰も歩いていない湖畔。鳥の声だけが聞こえる時間。椅子へ腰掛け、ゆっくりパステルを走らせる。

急ぐ必要はない。描き終える時間を気にする必要もない。早起きして手に入れた静かな朝だからこそ、絵を描く時間まで楽しめるのである。
※キャンプでスケッチを描くようになったきっかけは、「キャンプでスケッチを始めて分かった|写真では得られなかった時間の流れ」で紹介している。
夜9時に寝るのは、明日のご褒美を受け取るため
振り返ると、早起きする理由は少しずつ変わってきた。高校時代は、安全に山を歩くためだった。自転車やバイクで旅をしていた頃は、寄り道や温泉を楽しむ時間をつくるためだった。
そして今は、誰もいないキャンプ場を歩き、霜が降りた落ち葉を眺め、静かな朝にスケッチを描き、コーヒーを味わうために早起きしている。
同じ早起きでも、その理由は年齢とともに変わった。それでも一つだけ変わらないことがある。早起きは、急ぐためではなく、その日を豊かに使うための準備だった。
次のキャンプでも、私はきっと夜9時にはシュラフへ潜り込むだろう。翌朝、まだ誰も歩いていないキャンプ場をゆっくり歩き、小さなスケッチブックを開く。
お湯が静かに沸き始める音を聞きながら、少し冷えた空気の中でコーヒーを淹れる。そんな朝を思い浮かべるだけで、次のキャンプがまた楽しみになるのである。
※私にとってキャンプの朝は、一杯のコーヒーから始まる。その時間については、「キャンプの朝にゆっくりコーヒーを淹れる理由|慌ただしさを手放す15分」でも書いている。

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