1982年の石井スポーツと巣鴨ゴローに学ぶ、時代を超える道具たちの普遍的な価値

キャンプ道具売り場へ行くと、軽くて高機能な製品がずらりと並んでいる。見ているだけでも楽しい反面、「長く使えるのはどれなのだろう」と迷うこともある。

私が高校生だった1982年、初めて本格的な登山道具を揃えた。当時は最新装備を買えるわけではなかったが、そのとき選んだ道具のいくつかは、40年以上経った今でも現役である。

もちろん、最近のギアには便利さがある。しかし、長く使ってきたからこそ、「長持ちする道具には共通する特徴がある」と考えるようになった。

この記事では、1982年に石井スポーツやゴローで道具を選んだ体験を振り返りながら、長く付き合えるキャンプ道具を選ぶためのヒントをお伝えする。

ICI石井スポーツ新宿西口店

西新宿を歩いていると、今でも足を止めてしまう建物がある。

かつてICI石井スポーツが入っていたIDSビルである。今は違う店舗になっているが、レンガの外壁や外階段を見るたびに、高校生だった頃の自分を思い出す。

ワンゲル部に入ったばかりの私は、先輩の後ろを少し緊張しながら歩き、一段ずつ階段を上がった。

当時の私にとって、石井スポーツは単なる登山用品店ではなかった。「これから山を始める」という覚悟を持って初めて足を踏み入れた場所である。

店へ入ると、革の登山靴とワックスが混ざった独特の香りが漂い、壁一面には見たこともない道具が並んでいた。その空気だけで胸が高鳴ったものである。

道具選びで教わった「まず揃えるべき三種の神器」

先輩から最初に教えられたのは、ザック、登山靴、レインウェア、この三つを最優先で揃えることだった。

今ではウェアや便利グッズが豊富ですが、当時も基本となる考え方は変わらない。

山では派手な装備よりも、安全に歩き続けられることの方が大切だからだ。高校生だった私は、ただ言われるまま選んでいた。

「高嶺の花」のザックと実際に購入した石井スポーツのザック

店内に並ぶミレーやカリマーのザックは、当時の私たちにはあまりに高嶺の花だった。選んだのは、質実剛健な「ICIオリジナル」。雨蓋にICI石井スポーツのロゴが縫い付けれれている。このザックには今どきの高機能ザックのような「防水コーティング」が施されていない。

雨が降ればレインカバーを使う前提だった。そのため本体生地に防水コーティングの劣化が起きることもなく、40年以上経った今でも現役で使い続けられている。

近年の高機能ギアは非常に便利だが、実は長く使う上で最大の敵となるのが防水コーティング(ポリウレタン等)の経年劣化(加水分解)だ。ベタつきや剥離が発生すると、どんなに大切に扱っていても寿命を迎えてしまう。

一方、当時選んだICIのザックや、今も愛用しているマックパックのアズテック(綿とポリエステルの混紡素材)のように、「コーティングに頼らず、素材自体の力とシンプルな構造で長持ちする道具」には、時代を超えて使い続けられる普遍的な強さがある。

1982年購入のICI石井スポーツオリジナルザック。雨蓋の裏にあるゴールドとブルーの「ICI TOKYO JAPAN」織りネームと、40年以上の経年変化を感じさせるディテール。
青春の相棒。40年以上経った今も、「ICI」の誇りが、色褪せずに縫い付けられている。

レインウェアも、登場したばかりのゴアテックスには手が届かず、東レのエントラント素材を選んだ。レインウェアは防水性能を維持する以上、ある程度使ったら買い替えが必要になるのは、仕方のないことなのかもしれない。

登山靴は先輩おすすめの巣鴨「ゴロー」で買うことにしたので、そのほかの装備も選んでいく。

シェラフはモンベルのスリーシーズン・シェラフ。中綿はダウンではなく、「ダクロン」という中空繊維。嬉しくて、わざわざ自宅のベッドの上でシュラフを広げて寝た夜のことは、今も鮮明に覚えている。

小さな道具ほど、山では命を守る存在だった

ザック以外にも、小物を少しずつ揃えていった。エバニューのホイッスル。ウェンガーのナイフ。この二つは紐でつなぎ、首から下げて胸ポケットへ入れるのが私の定位置だった。後はナショナルのヘッドランプ。

先輩から言われた言葉は今でも忘れられない。

「ホイッスルは遭難した時、自分の居場所を知らせるため。」

「ナイフは食事だけじゃない。もしテントが潰れたら、自分で切って脱出するためでもある。」

当時は少し大げさに感じた。しかし山では、「何も起きなければ使わない道具」ほど重要になることがある。

その考え方は、今のキャンプでも変わっていない。ホイッスルも、細引きも、アルミ食器も、非常用の固形燃料も、派手な道具ではない。

それでも40年以上持ち続けているのは、構造がシンプルで壊れにくく、使う場面が昔も今も変わらないからだ。便利だからではなく、「必要な役割を変わらず果たしてくれる」。これも、古い道具たちから教えられたことの一つである。

紐で繋がれたエバニュー(EVER NEW)の紫色ホイッスルと、緑色のウェンガー(Wenger)のナイフ「スーベニール」。
今でも使っているエバニューのホイッスルと、緑色のウェンガー、スーベニール。

水筒も今のようなおしゃれなものはない。質実剛健なエバニューの2リットルの白いポリタンク!食器は同じくエバニューのアルミ製3点食器セット。大小の食器がスタックできるようになっていて、蓋がつく。この蓋は、皿にもなる。

この食器は個人用で、山行の際は、大きな鍋で作った料理(カレーや豚汁が多かった)を取り分けるのだ。

普段はこの食器セットの中に非常用の白い固形燃料「メタ」を忍ばせていた。非常時にはこのメタとアルミ食器で湯を沸かすことが出来るわけだ。食器の中に収まったメタのツンとした匂いは、常に最悪の事態を想定しておくという、厳しい戒めのようでもあった。

今のキャンプでは、この細引きを木々の間に渡し、シュラフを干すのに使用している

またあの時、新宿で選んだのは三種の神器だけではない。このナショナルのヘッドランプも、そして何にでも使える「細引き」も、私の今のキャンプにも欠かせない相棒だ。

ドイツパンのような、いとおしい相棒

石井スポーツで装備を固めた後、別の日には巣鴨の「ゴロー」へ向かった。手にしたのは、コストパフォーマンスが高い高校山岳部ご用達の重厚な一足、「エイティーン」だ。

店では入念に足のサイズを測り、ゆっくり長い時間試し履きをした後、当たるところがあれば大きな専用器具を靴の中に入れてグイグイと調整してくれた。「壊れないか」と不安になるほどの力技だったが、それほど丈夫に作られているのだと圧倒された。

ごつごつして重く、足を上げれば自重で振り子のように前へ出る。その大きなドイツパンのような風貌が、いとおしくて仕方がなかった。

ゴローの登山靴は靴底素材や接着剤にポリウレタンは使用していない。この登山靴も今の登山靴のように加水分解で靴底が取れたりしない点が特徴だ。

一緒に買ったKIWIのミンクオイルと防水ワックス。指の体温で溶かしながら、硬い革にじっくりと刷り込んでいく時間は、自分を「山の男」へと変えていく大切な時間だった。

40年経っても変わらない「ワクワク」

あれから40年以上。道具は驚くほど進化し、今ではパソコンやスマホを使って指先一つで最新の装備が簡単に手に入る。しかし、IDSビルの外階段を登る時のあの鼓動や、初めて手にしたアルミ食器のカチャカチャという音、店の独特のにおいこそが、今の私のキャンプライフの根底に流れ続けている。

「快適な最新機能」と「育てるクラシック」、どちらを選んでもいい

現代のアウトドアシーンにおいて、技術の粋を集めた最新機能の道具を選ぶことは、間違いなくスマートで快適な正解の一つだ。移動を楽にし、天候への不安を減らしてくれる恩恵は計り知れない。

しかし、もし道具選びに迷ったときは、機能性とは別のタイム軸にある「長く付き合えるかどうか」という視点を、もう一つの選択肢として並べてみてほしい。

  • 最新の機能性で、スマートに自然を楽しむか
  • シンプルな構造の道具を、手入れしながら一生の相棒にするか

どちらの選択も、アウトドアシーンを豊かにしてくれることに変わりはない。私自身は、同じ道具を使い続けることで、性能だけでは得られない安心感や思い出も一緒に積み重ねられることに価値を感じている。


こうした「道具の記憶」が今のキャンプに繋がっている感覚は、ストーブにも通じるものがある。詳しくは、こちらの記事でも書いている。

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