社労士はなぜ相談顧問に挑むべきか?労働集約型業務からの脱却ポイント

今日は、社労士の仕事のなかでも相談顧問にぐっと焦点を当ててお話しします。読み終わるころには、なぜ社労士にとって相談顧問が重要で、しかも自信を持って積極的に取り組むべきなのかその理由が腑に落ちるはずです。

今の現場では、社労士の仕事の多くが手続き業務など労働集約型の業務で占められていますよね。そんな中で、これから開業する方や駆け出しの方こそ相談顧問が有望だと私が考える理由を、自分の実体験も交えながらお伝えしようと思います。

社労士の仕事は大きく2種類に分けられる

一般的な社労士事務所が、企業と顧問契約を結んで担う主な業務は、ざっくり次の6つです。

  • 労働集約的業務
    • 労働社会保険関係手続き業務
    • 給与計算業務
    • 助成金申請業務
  • 頭脳活用型業務
    • 人事制度構築業務
    • 就業規則作成業務
    • 相談指導業務

これは企業と顧問契約を結んで仕事を依頼してもらう場合の、考えられる主な業務です。これ以外も社労士は個人向け業務等いろいろありますが、今回は一般的な企業相手の業務とします。

労働集約的業務

まずは、社労士がよく引き受ける3つの仕事を「労働集約型」と呼んでいます。具体的には、労働・社会保険の手続き、給与計算、それから助成金の申請。

このあたりは“手を動かしてなんぼ”の仕事です。書類を作ったり数字を計算したりと、実務的な作業が中心になります。

労働社会保険関係手続き業務

労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金保険といった公的保険は、会社の活動と切っても切れない関係ですよね。

たとえばA社がBさんを採用したとしたら、Bさんを各保険に加入させる義務が発生します。そのために「被保険者資格取得届」といった書類を作り、役所に提出するわけです。

入社・異動・退職など社員の動きがあるたびに手続きが必要になるので、結局「これはもう社労士に任せよう」となるのです。

給与計算業務

こちらは言うまでもありません。従業員にとって一番気になるお給料を、きちんと計算して明細を作る仕事です。支給日は動かせませんから、正確さとスピードが命。毎月必ずやってくる“待ったなし”の業務です。

助成金申請業務

国から支給される助成金はありがたい仕組みですが、「申請しないともらえない」という厄介さがあります。条件確認も書類作成も意外とややこしいので、ここも外部の社労士にお願いしたい、となりやすい領域です。

頭脳活用型業務

一方で、人事制度を作ったり、就業規則を直したり、会社からの相談に答えたり——こういう仕事は、同じ顧問業務でもまったく性質が違います。

書類をひたすら処理するのとは違って、メインは「考えること」。頭の中で組み立てて、答えを導き出す仕事なんですよね。

人事制度構築業務

賃金体系とか評価制度、昇進のルールなんかをまとめて「人事制度」と呼びます。これって会社の“骨格”みたいなものなんです。設計次第で、社員のやる気や定着率、さらには会社の成長スピードまで変わってきます。

ここで求められるのは法律の知識だけじゃありません。経営の方向性や、その会社ならではの文化まで理解して、トータルで制度を作り上げていく。まさに社労士の頭をフル回転させる仕事です。

就業規則の作成・変更業務

就業規則は“職場のルールブック”。会社の実情や法改正に合わせて、作り直したり手を入れたりします。現場の声を丁寧に拾い、法律にきちんと沿った形に落とし込む。ここでは設計力も調整力も両方求められます。

相談指導業務

そして忘れちゃいけないのが相談業務。「この対応って労基法的にどうなの?」「この社員にはどう対処したらいい?」といった社長や人事担当者から日々寄せられるこんな質問に、答えていく仕事です。

知識も経験もフル活用する、まさに“頭脳労働の真骨頂”ですね。


これでお分かりのように、社労士の業務は、労働集約型業務と頭脳活用型業務の二つに分けられると分かりますよね。

相談顧問とは何か、そしてなぜ需要があるのか

相談顧問とは、手続きや給与計算などの労働集約型業務は含めず、相談・指導業務(=労働問題の相談に回答・指導)に特化した顧問契約を指します。

なぜこの形態が求められるのか。理由はシンプルで、労働集約型業務は慣れれば社内でも対応可能である一方、労働法・労務管理は専門性が高く、社内だけでの対応が難しいからです。

「手続き等は社内で行うが、法判断や運用の肝は専門家に相談したい」というニーズにフィットするのが相談顧問です。

現実を見ると、世の中の多くの社労士事務所は労働集約型業務がメイン。相談・指導の比重はそれほど高くないのが実態です。そのため、相談顧問=受け入れられにくいと思い込む風潮も一部にありますが、それは事実ではないのです。

「遠慮しすぎ」になっていませんか?

なぜ相談顧問に踏み出せないのか原因はさまざまですが、私の肌感覚では、経営者に対する過度な遠慮や萎縮が背景にあるように思います。もちろん社長は偉い。しかし神ではなく人です。

あくまで私は想像ですが、社労士になる方って、会社員の方が一念発起して勉強して試験受かって開業するというパターンが多いと思います。社労士の多くは会社員から独立して開業するケースで、経営者としての経験を持つ人は少数派です。

もしかすると、そうした背景が「経営者は自分より格上だ」という意識につながっているのかもしれません。しかし必要な領域では、社労士の専門性が社長の知識を明確に上回ることが多い。

合格率5〜8%という難関試験を突破し、体系的に学んだ社労士の知識は、現場で確実に価値を発揮します。「自分なんかに相談業務を任せてもらえるはずがない」というその思い込みこそ、機会損失です。

相談顧問の需要はある

「社長」と一口に言っても、本当にいろんなタイプがいます。年齢も性別も違うし、バックグラウンドもバラバラ。その中には、労務管理なんてあまり気にしていない人も確かにいます。

でも一方で、労務管理を会社の基盤としてちゃんと大事に考えていて、「ここは専門家の力を借りたい」と思っている社長も間違いなくいるんです。私たちが探すべき相手は、まさにこのタイプの社長です。

経営に長けた社長でも、労務管理や労働法のプロではありません。もちろん経験で勝る部分はあるでしょうが、体系的な知識や最新の動向に関しては、社労士の方がずっと強い。だからこそ自信を持って「自分の専門性を提供していい」と言えるんです。

相談顧問のメリットと開業当初の注意点

相談顧問の魅力をあらためて整理すると、大きく二つあります。

  • やりがいがあること
    相談業務は、状況を整理して論点を見極め、最適な答えを導く仕事です。知識をフルに使うので、成果を出せたときの手応えは大きいんですよね。
  • 多忙になりにくいこと
    手続きや給与計算は量が増えれば限界がすぐ来てしまいますが、相談業務は時間のコントロールがしやすい。工夫次第で複数の案件も無理なく回せます。

ただし注意点もあります。開業したばかりだと仕事が少なくて不安になり、「とりあえず手続きや給与計算も受けよう」となりがちです。もちろん経験にも収入にもつながるので、一概に悪いとは言えません。

ただ、たとえば給与計算を一度受けてしまうと、締め日から支給日までの“動かせない繁忙期”が毎月必ずやってきます。ここに縛られると、新しい相談案件に力を割けなくなってしまうんです。

だからこそ、「どこまでやるか」「どこはやらないか」という線引きを、できるだけ早いうちに決めておくことをおすすめします。将来の立ち位置を考えたうえで選んでいくことが大切なんですよね。

私の事務所の実情

ここまで偉そうに書いてきましたが、正直に言うと私の事務所も最初は「典型的な悪いパターン」でした。

手続き顧問をとにかく増やせるだけ増やして、その結果どうなったか。仕事量が膨れ上がってしまって、完全に身動きが取れなくなったんです。結局スタッフを雇って、なんとか手続き業務を回すのが精一杯という状態でした。

でも、このままじゃ長続きしないなと感じて、思い切って新しい受注は相談顧問中心に切り替えるようにしました。いまは、相談顧問だけの契約が全体の3割、残り7割が手続き顧問という割合です。これからは相談顧問の比率をもっと増やしていきたいと思っています。

相談顧問をお願いしてくださる会社は、人事部門をしっかり持っている企業が多いですね。社員数でいうと100名前後の会社が中心です。こうした企業は手続き業務は自社で回せるので、私には相談の部分を任せてくださる。社員数が多いので、顧問料もそれなりの水準になります。

実際に100名規模の相談顧問を受けてみると、最初に抱いていた「これはハードル高いんじゃないか?」という不安は、ほとんど杞憂でした。

やってみたら「なんだ、大丈夫じゃないか」と思えたんです。もちろん日々の勉強や丁寧な対応は欠かせませんが、むしろ相談顧問の方がやりがいを強く感じられるようになりました。

それに今後は、手続きの仕事って自動化やAIの発展でどんどん効率化されていくと思います。そうなると、ますます「人が頭を使って判断する仕事」、つまり相談顧問の価値は高まるはずです。だから、ここに力を入れていくのは正解だと確信しています。

デスクで大量の書類に追われる社労士と、社長と相談しながら落ち着いた表情で対応する社労士を対比的に描いたイラスト。労働集約的業務から脱却し、相談顧問の比率を高めることで余裕が生まれる様子を表現している。
労働集約的業務から相談顧問へシフトすると、社労士の働き方に余裕とやりがいが生まれる

まとめ

社労士の仕事は、大きく以下の二つに分けられます。

  • 手続きや計算をこなす「労働集約型業務」
  • 知識や判断力を活かす「頭脳活用型業務」

多くの社労士事務所は前者を中心にしていますが、実は相談顧問のような頭脳活用型には確実な需要があります。私自身、手続き顧問ばかりに頼って動けなくなった経験がありますが、相談顧問にシフトしたことでやりがいと安定を得られました。

これからはAIやシステムで手続き業務が効率化されていく時代です。だからこそ、人にしかできない「判断と提案」を武器にする相談顧問に挑戦する価値があります。

自分の知識を信じて、思い切って相談顧問へ一歩踏み出してみてください。

コメント