社会保険労務士として、日々いろいろな会社からご相談をいただいています。その中でも意外と多いのが、「休憩時間」にまつわるトラブルなんです。
「たった1時間の休憩でそんなに問題になるの?」と思う方もいるかもしれません。でも、実際の現場ではほんのちょっとした勘違いが原因で、思わぬトラブルに発展することがよくあります。
法律の条文だけを読むと、内容はとてもシンプルです。けれど、実際の職場で運用しようとすると、「これって休憩に入るの?」「少し残業しただけでも休憩が必要?」といった細かい疑問が出てくるんですよね。
この記事では、私が実際に受けた相談や現場で感じたことを交えながら、労働基準法で定められている休憩時間のルールを、“現場目線”でできるだけわかりやすくお伝えします。会社のルールづくりや勤怠管理を見直すときのヒントになればうれしいです。
休憩時間の基本ルール
まずは基本からおさらいしておきましょう。労働基準法では、労働時間の長さに応じて休憩を取ることが定められています。ポイントはシンプルに、この2つです。
つまり、6時間ちょうどなら休憩は不要。8時間ぴったりなら45分でも法律上はOKというわけです。とても単純に見えますが、この「ぴったり設定」が意外と落とし穴になることがあります。実際の現場では、この“ちょっとしたズレ”が思わぬ問題を生むこともあるんです。
休憩の三原則
法律にはもう一つ、知っておきたい基本的な考え方があります。それが「休憩の三原則」です。
さらに補足すると、休憩時間は長く設定してもいいですし、分けて取ることもできます。実態に合わせて工夫できるんですね。

ここからは、私が実際に受けた相談をもとに、現場で起きやすいケースを紹介していきます。法律だけでは見えにくい「リアルな運用」の部分を、一緒に考えてみましょう。
相談事例1|昼休みを取れない製造業A社のケース
製造業のA社から、社労士としてこんな相談を受けました。
「納期が迫っていて、昼休みを取れないことがあるんです。その分、早く帰る形にしてもいいですか?」
一見すると「勤務時間の合計が同じなら問題ないのでは?」と思いがちですが、これは“途中付与の原則”に反します。休憩は“働いている途中で”与えなければならず、最後にまとめて取るのはNGなんです。
私はこの会社に、「途中で少しでも休憩をはさむようにしましょう」と提案しました。A社では昼休みが45分でしたので、昼に30分だけ休みを取り、残りの15分を15時ごろにもう一度とるように運用を変えました。
これに合わせて、製造ラインの部署の就業規則も見直し、「業務の都合により休憩時間を変更することがある」という一文を追加しました。
長時間通しで働くと、集中力が切れてヒヤリとすることが増えます。“途中でしっかり休む”というのは、法律だけでなく安全面でもとても大事なんです。
この仕組みを導入するには、就業規則の変更手続きや社員への説明、労働者代表の意見書作成、労基署への届出まで含めて、約1か月ほどかかりました。総務担当者が中心となって進めてくれました。
導入後の部門会議では、ライン担当の社員から「午後の集中力が続くようになりました」「小休憩があると気持ちが切り替えられる」といった声があり、法令を守りながらも、現場の雰囲気が前向きに変わったと感じました。
相談事例2|昼休みに電話当番をしているが問題はない?
システム保守を行うB社からは、社労士としてこんな相談がありました。
「昼休み中にも障害対応の連絡が入ることがあるため、順番で1名が休憩時間にもオフィスに残り、弁当を食べながら電話当番をしています。この運用に問題はありませんか?」
一見合理的にも思えますが、これは「自由利用の原則」に反するおそれがあります。休憩中に“呼ばれるかもしれない”と気を張っている状態では、実際には休めていないんですね。
私はこの会社に、労使協定を結んだうえで、交代で休憩を取る方法を提案しました。たとえばAチームは12:00〜13:00、Bチームは13:00〜14:00。誰かは常に対応でき、休む人はきちんと休める体制です。
この方法を導入するには、一斉付与除外の労使協定を締結する必要があります。社員説明や意見集約もスムーズに進み、3週間ほどで運用を始めることができました。
導入からしばらくして、ミーティングの場で電話当番だったエンジニアの方がこう話してくれました。
「前は昼休みでも“いつ電話が鳴るか”と気を張っていて、全然休んだ気がしませんでした。でも交代制にしてからは、昼の1時間は本当に休めるようになりました。」
会社としても「障害対応が止まらない体制」を保ちつつ、法令に沿った運用に改善できた良いケースでした。
相談事例3|勤怠システムが自動で休憩を計上していたケース
社労士として相談を受けたのは、サービス業のC社です。最初の相談は「勤怠システムで自動的に休憩を入れる設定にしていますが、これって問題ないでしょうか?」というものでした。
この会社では、9:00始業、12:00〜12:45休憩、17:45終業。残業のある日は17:45〜18:00を“休憩”として18時から残業を始めるルールでした。表面的には正しいように見えますが、実際は多くの社員が17:45からすぐ残業を開始し、システム上ではその時間が自動的に休憩として除外されていました。
その結果、「休憩未取得」と「残業代未払い」という二重の問題に発展していました。社員からも「形だけの休憩に意味がない」という声が出ていたんです。
私はこの会社に、昼休憩を1時間に延長して終業を18時に変更する方法を提案しました。これで残業前に“形だけの休憩”を入れる必要がなくなります。
勤務時間の変更は大きな決断です。説明会を開いて社員に丁寧に事情を話し、同意を得たうえで就業規則を改定しました。
残業代の未払いがなくなることで社員の納得も得られ、スムーズに進みました。労基署への届出まで含めて約2か月かかりましたが、結果的に「法律を守りながら、社員も納得できる仕組み」に変えることができました。
まとめ
休憩時間は、単に“法律で決まっているから取らせるもの”ではありません。それは、従業員の健康と安全、そして会社の信頼を守るための大切な時間です。
社労士として現場を見ていると、「労働基準法どおりに運用すること」と「現場の実態に合わせること」、この両立こそが本当に難しく、でも一番大切だと感じます。
今回ご紹介した3つのケースでは、内容によって導入までの期間はさまざまでした。ただ、どの会社でも共通していたのは社員への丁寧な説明と、現場の理解を得るプロセスを省かないこと。ここが成功の鍵です。
6時間を超えたら45分、8時間を超えたら60分。途中付与・一斉付与・自由利用の三原則を意識しながら、それぞれの現場に合った“無理のないルールづくり”をしていくことが、トラブルを防ぎ、働く人を守る一番の近道だと思います。


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