この記事では、社会保険労務士(社労士)として仕事を軌道に乗せていくために、特に開業社労士にとって欠かせない「顧問契約」の獲得と、その後の関係構築の秘訣について掘り下げていきます。
「どうすれば顧問契約が取れるのか?」「一度取った契約をどうやって長く続けていけるのか?」そんな疑問に対して、実践的な視点から具体的に考えてみましょう。
開業社労士とは「商売を始めること」
社労士として独立するというのは、単に資格を持っているという状態から一歩踏み出して、サービスを世の中に提供し、その対価としてお金をいただくビジネスを始めることです。
試験に合格したあと、勤務社労士として働く選択もありますが、ここで取り上げるのは「開業社労士」として自分の看板で仕事をするケース。つまり、自らが社長であり営業マンであり専門職でもあるというスタイルなんです。
開業後の仕事は実に幅広く、例えば以下のような業務が挙げられます。
- 中小企業との顧問契約業務
- 各種助成金の申請代行
- 年金相談(個人向け、金融機関との連携含む)
- 障害年金の請求サポート
- 就業規則の整備や人事制度コンサルティング
このように、選べる道は実に多彩ですが、多くの開業社労士が最も力を入れているのが「顧問契約」です。
顧問契約とは、主に中小企業と継続的な契約を結び、人事・労務に関する業務を代行・支援するもの。大企業であれば専任の人事部があって当然ですが、中小零細企業になるとそうはいきません。
中には、社長の奥さんやご親族が総務や労務まで全部こなしている、なんていうケースも少なくありません。そんな現場において、社労士が“外部の頼れる人事担当”として必要とされる場面はとても多いんです。
そしてもう一つ、顧問契約の魅力は報酬が「月額制」になっていること。つまり、契約が続く限りは毎月コンスタントに収入が得られるわけで、これがあるとやっぱり生活は安定しやすいです。
開業して間もない頃は特に、単発の仕事だけでは先の見通しが立てづらいので、継続契約があるというのは心強い柱になるんですよね。
顧問契約を取るための2ステップ
顧問契約を結びたいのであれば、まず、相手である社長と出会わなければ始まりません。知り合いの社長が一人もいないのに「顧問契約が欲しい」と言っても、それは無理な話です。社長と出会うためには、まず営業活動が不可欠です。下記のような方法で、とにかく社長と知り合う数を増やす。これが第一段階です。
- 飛び込み営業
- テレアポ営業
- DM、FAXDM
- 異業種交流会に参加する
- 経営者団体(法人会や商工会など)に参加する
出会っただけでは顧問契約には至りません。次に必要なのは、「この社労士は信頼できる」「能力がある」と認めてもらうことです。例えば飛び込み営業やテレアポ営業では、社長や会社が抱えている問題を解決できる、専門知識があり役に立ちそうだと感じてもらえるかという事が重要です。
異業種交流会や経営者団体では、あまり営業色を前面に出すと、嫌われる場合があります。私の場合、人となりを理解してもらい、信頼感を得るという事を重視してコミュニケーションをとっていました。すぐに契約に至ることは少なかったですが、何か困ったことがあった時に「あの社労士なら・・」と思ってもらえるように心がけていました。
数を打てば運よく契約に至ることもある
人とのご縁は予想できないものです。社長と知り合う機会を積極的に作っていけば、ふとしたきっかけで契約が決まることもあります。
たとえば「社長自身の年金について質問したところ、親切に対応してくれたので頼んでみようと思った」とか、「これまで社会保険の手続きは自分でやっていたが、社労士に任せれば本業に集中できそうだと気づいた」、「たまたま話してみたら誠実そうで感じが良かった」といった理由で契約に繋がることもあります。
私の場合、ある経営者の会合で5分間の自己紹介スピーチがあり、そこで会社員を辞めて開業に至った苦労話を正直に語りました。その話に何か響くものがあったのか、名刺交換をした社長から、後日「ぜひお願いしたい」とご連絡をいただいたんです。
あれは、努力や実績以上に、「人としての共感」が契約に繋がった印象的な出来事でした。
このように必ずしも能力や実績だけが決め手になるわけではなく、出会いの数がご縁を生むことも多いのです。だからこそ、社長と出会い続ける姿勢が大切です。

顧問契約を継続するためのポイント
顧問契約はゴールではありません。長く続けてもらえるかどうかが次の課題です。ここでは、契約が解消される3つの理由とその対策について触れておきます。
① 最初からお金だけで繋がっていた
助成金の申請をきっかけに顧問契約を結ぶというのは、よくあるパターンですが、その場合、どうしても「お金目当て」の関係になりやすく、結果として契約が長続きしないケースもあります。
助成金業務そのものは素晴らしいサービスですが、それだけを軸にした関係は、いずれ限界がくることもあるのです。
実際に私の経験では、助成金の受給後に「他に何か使える助成金はないの?」と次々と聞かれ、対象となる制度がないとわかると、そのまま顧問契約を終了されてしまった、ということもありました。
このように、継続的な関係のためには、金銭的なメリット以上に「信頼」をどう築くかが鍵になります。
② 社労士自身の魅力不足
社長に能力や人柄を十分に認めてもらえていないと、「もっと良い社労士がいるのではないか」と考え、乗り換えを検討されることがあります。
特に、若手の社労士が割安な料金で積極的に営業をかけてきた場合などは、社長の気持ちがそちらに傾きやすくなります。
また、業務とは直接関係のない雑談や世間話の受け答えを、意外と重視している社長も少なくありません。
だからこそ、顧問契約を維持するためには、常に知識と対応力を磨き続ける「自己研鑽」が最大の秘訣なのです。
③ 相性が合わなかった
顧問契約が続かなくなる理由の中で、意外と大きな要因となるのが「相性」です。
人間同士なので、どうしても合う・合わないがあります。最初は問題なく付き合っていても、だんだんと「何となく合わないな」と感じてしまうことがあるんですよね。そしてそういう時は、大体相手も同じように感じているものです。
この問題には、はっきりした対処法がないというのが難しいところです。誤解ではなく、本当に性格や感覚が合わないだけ、ということもありますから。
また、「社員に対する考え方」の違いも、実はこの“相性”の延長線上にある重要なポイントです。たとえば、社員を「使い捨て」くらいにしか思っていない経営者と、社員を大事にして一緒に会社を成長させたいと考える社労士が組んでも、うまく噛み合わないのは当然ですよね。
こうした考え方のギャップは、表面的には見えにくいものの、時間の経過とともにボディブローのように効いてきて、最終的には契約の継続に影響することも少なくありません。
結論:相性の良い社長と出会えれば、社労士人生は格段に楽しくなる
営業の努力や日々の自己研鑽は、社労士として成長するうえで当然欠かせないものです。けれど、それだけで本当に満足のいく仕事ができるかといえば、そうとも限りません。
最終的に、社労士としての充実感ややりがいを大きく左右するのは、「相性の良い社長」と出会えるかどうか。ここに尽きるといっても過言ではありません。
もしも、自分と相性の合う社長と出会えたなら・・。その関係は、5年、10年、あるいはもっと長く、時に生涯にわたって続いていくことだってあるでしょう。
そして、そうした信頼関係をいくつも築いていけたとき、社労士という仕事は心から楽しく、やりがいに満ちたものへと変わっていくはずです。
まとめ
開業社労士として仕事をしていくということは、つまり自分で商売を始めるということ。知識や経験を活かして、必要とされる企業に価値を届け、その対価をいただく。そこには現実的なビジネスの厳しさとやりがいがあります。
中でも、顧問契約は安定した収入源であり、信頼関係を築いていく上でも大切な仕事。契約を得るには、社長との出会いを重ね、信頼してもらえる存在になることが大切です。ときには人柄や雰囲気が決め手になることもあるので、経験やスキル以上に「ご縁を広げていく姿勢」が成功の秘訣になります。
そして何より、社長との相性が合えば、その関係は長く続き、社労士の仕事がもっと楽しく、やりがいあるものになっていくはずです。
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