社労士の仕事って、つい「手続きが中心」と思われがちですよね。けれど実際の現場でいちばん勝負が決まるのは、社長や従業員からの相談にどう応えるか。ここに尽きます。
ここで言う「相談力」は、相談を受けたときにどう対応し、最適な解決へ導く力のこと。こちらから相談を持ちかける力でも、相談の持ち込み方でもありません。いわば相談に応じる力=相談対応力だと考えてください。
この相談力があるかどうかで、社長からの信頼のされ方は大きく変わります。信頼が積み上がれば声がかかりやすくなり、その積み重ねが結果として評価や報酬にも反映されていくというそんな流れです。
そして相談力は、一つの技だけで完結するものではありません。土台になっているのは「問題解決力」「コミュニケーション力」「経営支援」という三つの視点。これらが噛み合って初めて、本当に使える相談対応ができます。
では、この三つをどう伸ばしていくか。ここからは私自身の経験も交えながら、順番にお話ししていきます。
問題解決力を高める!社労士の相談力の第一歩
相談を受けたときにやってはいけないことがあります。それは「すぐに答えてしまうこと」。
表面的な質問に即答するのではなく、「なぜその相談が出てきたのか?」という背景を丁寧に掘り下げることで、本質的な解決策が見えてきます。
解雇相談のケース
「先生、社員を解雇したいんですが」と相談を受けたとします。ここで「解雇は30日前に予告が必要です」なんて即答したらアウトです。大事なのは「なぜ解雇したいのか?」を聞くことなんです。
- 懲戒解雇に該当するような行為があったのか?
- もしそうなら改善の余地はあるのか?
- それとも業績が悪くて人員整理をしたいのか?
もし人員整理なら、希望退職を募るとか退職勧奨をするとか、別の道もあるわけです。つまり同じ「解雇したい」でも、背景次第でアプローチは全然違うんですよね。
就業規則作成のケース
「就業規則を作りたい」と相談を受けることもよくあります。ただ、その理由をよく聞いてみると、まったく違う対応が必要になることが多いんです。
- 「社員が10人を超えたから、法律で作らなきゃいけなくなっただけ」という場合。こういうケースなら、シンプルな就業規則でも十分に対応できます。
- 「うちは業種が特殊だから、独自の服務規律を入れたい」と言われれば、ひな形では済みません。業務内容を細かくヒアリングして、その会社に合った形を作っていく必要があります。
- 「ハラスメントの問題が多くて困っている」という会社なら、懲戒規定を厚めに作ったり、場合によっては社員研修まで提案した方が安心です。
同じ「就業規則を作りたい」という依頼でも、背景次第でアウトプットはまったく変わります。こうした違いを見抜いて、最適な提案ができるのが社労士の問題解決力だと思います。
ハラスメント相談のケース
最近特に増えているのが「ハラスメントにどう対応すべきか」という相談です。
- 上司が部下に強く当たっている → 指導とパワハラの線引きを整理し、指導方法を改善する。
- セクハラの苦情が出ている → 事実関係の確認、当事者双方のヒアリング、再発防止策を講じる。
- 社内全体の風土に問題がある → 就業規則の見直しや相談窓口の設置、研修プログラムの導入を検討する。
要するに、「法律的にセーフかアウトか」だけを答えて終わりでは不十分なんですよね。どうすれば同じ問題を繰り返さないか、その仕組みまで含めて提案できることこそ、社労士の役割であり価値だと感じます。
残業削減のケース
「社員の残業時間を減らしたい」というご相談は、本当によくいただきます。
- 単純に仕事量が多すぎるなら、業務の棚卸しをして外注や役割分担の見直しが必要になります。
- 時間の管理が甘い会社では、まず勤怠管理システムを入れて「測れる仕組み」を作るのが先決です。
- サービス残業が当たり前になっているなら、マネジメントや評価制度を含めた組織風土そのものに手を入れなければなりません。
だから残業の話は、「36協定を守りましょう」だけで片づきません。会社の体制や文化のところまで踏み込んで、打ち手を一緒に考えるのが大事なんです。
選択肢を提示する姿勢
また、相談を受けた場合に注意すべきなのは、解決策を一つだけ押し付けないことです。解雇・就業規則・ハラスメント・残業管理といったどんなテーマであっても、考えられる解決策は複数あります。
例えば3つくらい候補を出して「それぞれメリット・デメリットはこうです。そのうえで私のおすすめはこれですが、最終的には社長が決めてくださいね」と伝える。これだけで社長の納得感はまるで違います。「一緒に考えてくれてるな」と思ってもらえるんです。

コミュニケーション能力を磨く
どんなに知識があっても、話し方や聞き方が下手だと相談力は半減します。結局、相談は「会話」で進んでいくものだからです。大事なのは次の3つ。
- 質問力:なぜその悩みが生じたのかを掘り下げる。
- 共感力:感情を受け止め「大変ですよね」と伝える。
- 沈黙の力:答えを急がず、社長が考える時間を尊重する。
これって一見当たり前なんですけど、やろうとすると意外と難しいんですよね。つい自分がしゃべりすぎたり、間を怖がって埋めてしまったり。僕自身も最初はそうでした。
でも、ただ「声に強弱や緩急をつけよう」と意識するだけではなかなか身につきません。
私の場合、効果的だったのは面談をボイスレコーダーで録音して後から聞き返すことでした。
録音するときは、胸ポケットなどにボイスレコーダーを入れて録音しました。聞き返してみると、自分では気づかなかった癖がよく分かります。
例えば「えー」「あのー」といった口ぐせが多いとか、声が単調で一本調子になっているとか、逆に間を取らずに早口になってしまっているなど。
そうした癖を意識して直すために、私は改善点を紙に書き出して次の練習で意識するようにしました。「口ぐせを減らす」「大事なところでは必ず一拍置く」など、チェックリストのようにして練習を重ねると、少しずつ改善されていきます。
結局のところ、小さな工夫を積み重ねながら繰り返すことが、相談力につながるコミュニケーション改善の一番の近道だと思います。
社長の右腕として「従業員を巻き込む経営支援」
相談力を発揮すると、単に「制度を整える」だけでなく、社長が抱えている悩みを整理し、その解決策として「従業員を巻き込む経営」を提案できるようになります。
社長が一人で意思決定を背負い込まずに済む仕組みを作ることが、社労士にできる大きな支援です。
たとえば残業削減の相談では、単に36協定を説明するのではなく、従業員を交えた業務改善会議を設ける提案が有効。
またハラスメント問題なら、社長だけが判断するのではなく、ハラスメント防止委員会や相談窓口を設置したり社員研修を導入して「会社全体で改善に取り組む」形を作ることができます。
こうした具体的なサポートによって、社長は「一人で抱え込む必要がない」と実感でき、安心して意思決定ができるようになります。これこそが、相談力を発揮して初めてできる経営支援だと言えるでしょう。
まとめ
社労士にとって欠かせないのは、相談力と問題解決力です。この2つを軸にコミュニケーション力や経営支援を磨くことで、社長の右腕として選ばれる存在になれます。
そして相談力を高めるには、次の3つがポイントです。
この3つを実践できれば、単なる手続き屋ではなく、社長の右腕として信頼される社労士になれます。結果的に顧客は増え、報酬も上がる。そう考えると、「相談力を磨く」というのは、キャリアにも年収にも直結する一番の近道なんです。
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