試用期間を設ければ本採用拒否は簡単か?社労士が実例で解説します。

ある日、顧問先の社長からこんな相談を受けました。

「求人で応募者があって面接もしたんですが、書類の提出が遅れたり、折り返しの連絡がなかったりして、ちょっとルーズな印象なんです。
ただ、人手が足りないので、とりあえず採用してみようかと。もし働きぶりが良くなければ、試用期間で本採用しないようにしたいんですが、それって大丈夫ですか?」

実は、この手の相談、かなり多いです。

「試用期間3ヶ月=3ヶ月間の“お試し雇用”」と試用期間を有期契約のように思われている方が意外と多いのですが、ここに大きな誤解があります。

試用期間の3ヶ月は有期契約ではなく、簡単に本採用を拒否できるものではありません。このことを理解していないと、思わぬトラブルに発展することがあるのです。

試用期間3ヶ月って“見習い”ではなく正社員です

会社の側としては「まだ見習いだから」と思っていても、法律上は、すでに正社員として雇用している状態なんです。

つまり、試用期間が終わって「やっぱり合わないな」と判断しても、それは解雇と同じ扱いになります。なので、30日前の解雇予告や、30日分の解雇予告手当が必要になるんですね。

「本採用拒否」は実質、解雇と同じ

試用期間中でも、社員の立場は正社員。ですから、本採用を拒否するにはちゃんとした理由が求められます。たとえば「仕事がすこし遅い」「雰囲気が合わない」みたいな理由では足りません。

解雇が認められるには、

  • 客観的な合理性
  • 社会通念上の相当性

この2つが必要とされています。

もっとも、試用期間での本採用拒否は、通常の解雇よりは多少ハードルが低いとされますが、「簡単に切れる」と思っていると痛い目を見ます。本当に“ややハードルが低いだけ”くらいに思っておいた方がいいですね。

試用期間を延ばすという方法も

3ヶ月で判断できないなら、試用期間を延長をする方法もあります。もう3ヶ月延ばして、合計6ヶ月。これなら3か月よりはより判断しやすいです。

ただし、何度も延長するのはおすすめしません。通算で6ヶ月くらいが目安です。それと、就業規則や労働条件通知書には試用期間について、「延長の可能性あり」と書いておくのを忘れずに。

6ヶ月あれば、だいたいその人がどんなタイプか、見えてくるはずです。

「3ヶ月の有期雇用契約」というやり方もある

もう一つのやり方が、「まず3ヶ月だけ契約社員として雇う」パターンです。この場合、契約期間が終わればそのまま終了(いわゆる雇い止め)できます。雇い止めは解雇ではないので、解雇予告も手当も不要です。

3ヶ月働いてもらって「この人ならやっていけそう」となれば、改めて正社員契約を結ぶこともできます。会社としては、リスクをある程度コントロールできるのがメリットですね。

有期契約にも弱点があります

とはいえ、有期契約にもデメリットがあります。まず、求人の応募が減ります。「契約社員募集」だと応募してくる層が変わるんですね。優秀な人ほど、最初から正社員を狙う傾向があります。

また、働く側にしても「いつ切られるかわからない」と不安になりがち。結果として、モチベーションが上がりにくくなる。定着率にも影響します。

なので、有期契約は“リスクを抑える”一方で、“いい人材を取りにくい”という側面もあるんです。

試用期間と有期契約の比較

試用期間と有期契約を比較してまとめると下の表のようになります。

比較項目試用期間3ヶ月有期雇用契約3ヶ月
身分正社員契約社員
満了時の終了解雇(理由が必要)雇い止め(解雇ではない)
求人の魅力度高い(正社員募集)やや低い(契約社員募集)
モチベーション比較的高い不安定になる場合もある

最後に:迷うなら、採らない勇気も選択肢です

今回は、「試用期間での本採用拒否は簡単ではない」という点をお伝えしたうえで、社長にはこうお話ししました。

「もしこの方を採用するのであれば、じっくり教育して育てる気持ちを持って採用した方がいいですよ。」

すると社長は少し考えたあと、こう言われました。

「今は人手が足りない状況ですが、教育する余裕もあまりないので、今回は採用を見送って、引き続き求人を続けることにします。」

結果的に、この判断はとても良かったと思います。人を“とりあえず”採るのではなく、スキルが足りない人材を育てる覚悟を持てるかどうか。そこが採用の分かれ目になると思います。

今回のケースでは、多少時間がかかっても最初からある程度の経験を持つ即戦力人材を採る方が、会社にとっては良い選択だと感じました。

人を育てるのは本来とても大事なことですが、今の業務状況や体制を考えると、まずは現場を支えられる人を確保することを優先すべき状態でした。

採用とは、会社の“今”と“これから”のバランスを見極める判断。だからこそ焦らず、長く戦力として活躍できる人材を選んでいきたいものですね。

オフィスで笑顔の社長と社員が握手を交わし、新しい仲間を迎え入れる場面を描いたイラスト。採用の前向きな決断を表現。
正しい採用判断が、会社に良い未来をもたらす

まとめ

  • 試用期間中でも社員は正社員扱い
  • 本採用拒否は「解雇」と同じで、正当な理由が必要
  • 有期雇用契約なら期間満了で終了できる
  • ただし、良い人材は集まりにくい
  • 「迷うなら採らない勇気」も経営判断のひとつ

人を採ることって、本当に悩ましいですよね。でも、制度を正しく理解しておけば、無用なトラブルは防げます。

あなたの会社では、試用期間をどう運用していますか?この機会に一度、見直してみてもいいかもしれません。

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