試用期間を設ければ本採用拒否は簡単か?社労士が実例で解説します。

採用の相談を日々受けていると、ときどきこんな質問が出てきます。「試用期間のうちなら、合わなければ採用しなくても大丈夫ですよね?」

気持ちは分かります。私も社労士として企業の状況を見ていると、現場がバタバタして人手が足りず、
“まずは入れてみないと回らない” という場面はよくあります。

ただ、その一方で、試用期間について誤解されている企業が少なくないのも事実です。この誤解があると、あとから会社側が思っていなかった方向に話が転がることもあります。

この記事では、社労士として日々寄せられる相談のなかから、試用期間にまつわる“よくある勘違い”を、できるだけ分かりやすく整理してみました。

なお、ここで紹介する内容は厚労省のガイドラインなど一般的な基準や、実務で遭遇しやすいケースをもとに再構成したもので、実際の企業名や個人が特定されるような話ではありません。状況によって最適な判断は変わりますので、最終的には専門家へ確認していただくのが確実です。

試用期間って、お試しというより“正社員と同等の状態”

採用面接をした社長から「少し気になる点はあるけど、とりあえず採ってみようかな」みたいな話が出るのですが、ここで一歩だけ立ち止まってほしいところがあります。

実は、この手の相談、かなり多いです。「試用期間=“お試し雇用”」と試用期間を有期契約のように思われている方が意外と多いのですが、ここに大きな誤解があります。

試用期間は有期契約ではなく、簡単に本採用を拒否できるものではありません。このことを理解していないと、思わぬトラブルに発展することがあるのです。

会社の側としては「まだ見習いだから」と思っていても、法律上は、すでに正社員として雇用している状態なんです。

つまり、試用期間が終わって「やっぱり合わないな」と判断しても、実務上は解雇に近い判断になります。なので、30日前の解雇予告や、30日分の解雇予告手当が必要になるケースも多いですし、場合によっては、解雇自体が無効だと主張される可能性も出てきます。

「本採用拒否」は実質、解雇と同じと考えたほうが良い

試用期間っていっても、法律上はほぼ正社員と同じ扱いなんです。だから、「今回は本採用は見送りたい」という場合でも、簡単に判断していいものではなくて、実質的には解雇と同じくらい慎重さが求められます。

厚労省のガイドラインでも、試用期間中であっても解雇には一定の合理性が求められるとされています。

「仕事が少し遅い」「雰囲気が合わない」といった曖昧な理由だけでは、後のトラブルにつながりやすい点は押さえておきたいところです。

解雇が認められるには、一般的に以下の2点が求められる傾向にあります。

  • 客観的な合理性
  • 社会通念上の相当性

もっとも、試用期間での本採用拒否は、通常の解雇よりは多少ハードルが低いとされますが、「簡単に切れる」と思っていると痛い目を見ます。本当に“ややハードルが低いだけ”くらいに思っておいた方がいいですね。

実務で起きがちなトラブル

たとえば、ある企業(仮にA社とします)で、試用期間中に遅刻が数回続いた従業員がいました。会社側としては「改善が見られない」と判断して本採用を見送ったのですが、本人は「改善するよう言われた記憶がない」と主張。

掘り下げてみると、注意したつもりでも記録が残っていなかったり、伝え方が曖昧だったりと、ほんの少しの行き違いが原因になっていることが多いんですね。

なので、試用期間とはいえ、言ったことはメモしておく、改善の時間を取る、伝えた内容を曖昧にしない、この3つは意識しておくと、後のトラブル防止にかなり役立ちます。

試用期間を延ばすという方法も

当初設定した試用期間で判断できないなら、試用期間を延長する方法もあります。例えば3ヶ月の試用期間を設定したなら、もう3ヶ月延ばして、合計6ヶ月。これなら3か月よりはより判断しやすいです。

ただし、何度も延長するのはおすすめしません。一般的には通算で6ヶ月くらいが目安にしている場合が多いです。それと、就業規則や労働条件通知書には試用期間について、「延長の可能性あり」と書いておくのを忘れずに。

ただ、必要以上に延ばすと本人が不安になりますし、会社側も判断が先延ばしになってしまいます。延長はどうしても判断に迷う場合にするのがいいように感じます。

「3ヶ月の有期雇用契約」というやり方もある

もう一つのやり方が、「まず有期契約社員として雇う」パターンです。この場合、契約期間が終わればそのまま更新しないという判断もできます。更新しないのは解雇ではないので、解雇予告も解雇予告手当も不要です。

例えば3か月の有期契約を結び、働いてもらって「この人ならやっていけそう」となれば、改めて正社員契約を結ぶこともできます。会社としては、リスクをある程度コントロールできるのがメリットですね。

有期契約にも弱点があります

有期契約には確かにメリットもあるんですが、その分、応募の数が減ってしまうこともよくあります。
実際、「契約社員募集」と書くだけで応募してくる人の層がガラッと変わることって、現場でもよく感じるんですよね。

とくに、一定以上のスキルを持っている人ほど、最初から「正社員で働きたい」と考える傾向が強いです。また、働く側にしても「いつ切られるかわからない」と不安になりがち。結果として、モチベーションが上がりにくくなる。定着率にも影響します。

なので、有期契約は“リスクを抑える”一方で、“いい人材を取りにくい”という側面もあるんです。

ここで、もう一つ予備知識として知っておきたい仕組みがあります。それが 「無期転換ルール」 です。
有期契約を更新しながら通算で5年を超えて働くと、労働者から申し込みがあった場合に無期契約へ転換する義務が発生するという制度で、労働契約法18条に定められています。

今回のように「まず試用期間だけ有期契約」といった短期の試用的な契約では、すぐに問題になることはないですが、有期契約を試用期間代わりに使った場合でも、更新を重ねていくと、将来的には無期転換の対象になる可能性が出てくるという点は、覚えておくと安心です。

試用期間と有期契約の比較

試用期間と有期契約の特徴を比較してまとめると下の表のようになります。

比較項目試用期間有期雇用契約
身分正社員契約社員
満了時の終了解雇の扱い(理由が必要)雇い止め(解雇ではない)
求人の魅力度高い(正社員募集)やや低い(契約社員募集)
モチベーション比較的高い不安定になる場合もある

記事冒頭の社長のケースに戻って

ここで、記事の冒頭で紹介した、「少し気になる点はあるけど、とりあえず採ってみようかな」と迷うケースに戻りましょう。

応募者に気になる点がある、ただし現場は人手不足で、早く人が欲しい、一方で、育成に回せる時間は限られている、こうした条件が重なると、「採用すべきかどうか」「試用期間で判断し直せばいいのか」
と悩む企業が多い印象です。

実務上は、育成の余裕があるかどうかが判断の分かれ目になることが少なくありません。もし教育の時間が取れない状況であれば、無理に採用を進めず、募集を続ける選択が適切な場合もあります。

人を育てるのは本来とても大事なことですが、今の業務状況や体制を考えると、まずは現場を支えられる人を確保することを優先すべき状態でした。

採用とは、会社の“今”と“これから”のバランスを見極める判断。だからこそ焦らず、長く戦力として活躍できる人材を選んでいきたいものですね。

まとめ

  • 試用期間中でも社員は正社員扱い
  • 本採用拒否は「解雇」と同じと考えたほうがよく、正当な理由が必要
  • 有期雇用契約なら期間満了で更新しない選択もできる。ただし、良い人材は集まりにくい傾向があります

人を採ることって、本当に悩ましいですよね。でも、制度を正しく理解しておけば、無用なトラブルは防げます。

あなたの会社では、試用期間をどう運用していますか?この機会に一度、見直してみてもいいかもしれません。

※試用期間中の対応は、判断を誤ると感情的な対立を生みやすい場面でもあります。どのように事実を整理し、対話を重ねるべきかという視点については、「社労士が考える、対立を和らげるための職場のトラブル対応術」も参考になります。

【執筆者】イタル(社会保険労務士)
社労士開業歴14年目。地域の中小企業の手続き業務、労務管理、相談業務に多数携わる。本ブログでは、実務経験に基づいた一般的な労務知識をわかりやすく解説しています。

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