資格を取って独立したら生活できる?社労士としての経験から見る収入とお金のリアル

開業して社労士として独立したあと、「本当に食べていけるのかな?」と不安になる方は多いと思います。正直、この問いに決まった答えはありません。

たとえばレストランを開業するのと同じで、大繁盛するお店もあれば、お客さんが来なくて早々に閉めてしまうお店もあります。結局は自分の努力次第なんですが、その努力をどう積み重ねていくかで結果はずいぶん変わってきます。

それから、開業準備をしているとよく耳にするのが「社労士は食えるようになるまで3年かかる」という言葉です。私も独立前に何度も聞かされましたし、「本当にそうなんだろうか?」と半信半疑のままスタートしたのを覚えています。

この記事では、私自身の経験や周囲から聞いたリアルな話をもとに、開業社労士が安定した収入を得るまでの流れや、生活費・経費を踏まえた試算方法を紹介します。モデルケースを通して、独立後の生活をイメージするきっかけになればうれしいです。

月にいくらの売り上げが必要か?

開業を検討する際、最初に考えるべきは「毎月いくら必要か」ということです。つまり、自分の最低限の生活費と、営業にかかる固定費を明確にすることです。2つの合計額が必要になる売上額の目安になります。

生活費の試算

生活に必要な金額は人によって異なります。だからこそ、まずは自分のケースを具体的に把握することが重要です。そのうえで、本当にその金額が必要なのか、開業当初はもっと支出を抑えられないかという視点で、見直せる部分をチェックしてみましょう。

圧縮できる生活支出の例としては、不要な保険の見直し、一時的な貯蓄ストップ、通信費やサブスクなどの見直しなどが考えられます。開業当初は売上が急激に伸びるわけではありません。だからこそ、初期の支出を抑える工夫が重要です。

私の場合は、開業時に子供は二人(当時小学校入学前)、さらに住宅ローンを抱えている状態。今から考えるとかなり無謀な状況で開業したと思います。幸いなことに妻が正社員として働いていたので、多少の安心感はありましたが、それでもやはり月30万円は必要でした。

家族がいる方の場合、特に配偶者には事前に資金計画などをよく説明しておくことが大切です。私の場合、退職金を含む貯金額を伝えたうえで、軌道に乗るまでは貯金から持ち出しになることも含めてよく説明し、事前に理解を得ました。家族の理解あってこその開業だと思います。

生活費の見直しから始める開業準備。まずは自分に必要な支出を把握しよう。

営業にかかる固定費の試算

次に考えておきたいのが、固定費の試算です。社労士として開業する場合にかかる固定費には、社労士会費、業務ソフトや会計ソフトの使用料、通信費、交通費、そして事務所の家賃などがあります。開業当初はとにかく出費を抑えることが大事なので、節約できる部分は思い切って節約するのがおすすめです。

たとえば、最初は事務所を借りずに自宅を事務所にしたり、備品は新しく買わずに手持ちのものを使い回したりするだけでも、かなり違います。

私自身の失敗談ですが、「やっぱりオフィス街に事務所を構えたほうが信頼につながるだろう」と考えて、自宅から電車で通う商業地域にレンタルオフィスを借りました。応接室は共用スペースを使えたのですが、それでも家賃は月4万円。さらに毎日の通勤定期代もかかり、合計で5万円以上も固定費が増えてしまったんです。

しかも私の場合、開業して4か月間、全く顧問契約が取れませんでした。事務所の家賃以外にも書籍代や(月に1万円ほど)、ホームページ作成費用(月に約3000円)、異業種交流会の参加費(1回数千円から1万円)など予想以上に出費がかさみました。

契約が取れないものですから、開業セミナー(数万円以上)などにもすがるように参加したりして、さらに出費が増え、貯金がものすごいスピードで減っていきました。

その結果、月に20万円以上の出費が続き、これではもたないとレンタルオフィスは4か月で解約して、自宅の一室に事務所を移し、出費を減らして、再出発することにしたのです。

いろいろな考え方がありますが、最初は自宅で開業したほうが、固定費の削減につながり、経済的な不安が軽減されると思います。

また、開業の場所は必ずしも商業地域でなくてもよいのではないかと思っています。現に商業地域でない住宅地などで開業していても、大きな成果を上げている同業者がいるし、通信手段の多様化と発達で、リモートでの面談なども可能になってきているからです。

現実的な試算をしてみよう

社労士業務、とくに顧問契約は“積み重ね型”のストックビジネスになります。これは、一度契約したクライアントから、毎月安定した顧問報酬が得られる仕組みです。

社労士の良いところは、顧問契約が取れる資格だという事です。スポットの依頼を繰り返していくしかないような他士業では、常に新しい仕事を受注し続けなければなりません。

それでは、顧問活動を主な業務(収入源)として考えた場合、開業社労士として「食べていける」ようになるには、どのように試算すればよいのでしょうか?

シミュレーション例

まず、一時的にかかるPC購入などの初期投資は除き、毎月継続的に必要となる生活費や事務所家賃、通信費などの固定的な支出を考えます。

  1. 生活費の月額(例:30万円)
  2. 開業にかかる固定費(例:15万円)

この場合、月々の最低売上目標は45万円になります。これを「月3万円の顧問契約」で補うと仮定すると、1件の契約獲得に3カ月かかる場合、次のように進むイメージです。45カ月(約4年弱)で15件の顧問契約を締結できれば、月45万円の売上を達成し、「食べていける」状態になります。

経過月契約数月額顧問料計
3月1件3万円
6月2件6万円
9月3件9万円
12月4件12万円
30月10件30万円
45月15件45万円
具体的な積み上げモデル(3カ月に1件、月額3万円の顧問契約が取れた場合)

3カ月に1件のペースで顧問契約が取れた仮定した場合、年間で12万円の月収増となります。サラリーマンが、月収で12万円昇給するのは一般的にかなり大変ですので、顧問契約のビジネスモデルがいかに優れているかがわかると思います。

私の実体験での成果

上記のようなシミュレーションをしましたが、考えるだけなら簡単です。では私の実体験ではどのようになったのでしょうか?

私の場合は固定費が10万円ほどで、生活費は30万円必要でしたのでまずは、月額売り上げ40万円を目標にしていました。結果は下表のとおりです。

経過月契約数月額顧問料計
5月1件1万円
12月6件9万円
24月11件20万円
36月15件38万円
48月18件45万円
私の場合上記のような結果になった

私の実際の結果を振り返ってみて、自分なりに分析してご説明したいと思います。まず、これは営業エリアや、契約できるお客様の規模によって変わってくるのですが、私の場合、最初から月額3万円の契約はハードルが高かったです。

中小零細企業が多い地域では、どうしても顧問料の単価は低くなりがちです。たとえ地域に大きな会社があったとしても、契約を結べるだけの実力がなければ、結局は零細企業との小さな契約にとどまってしまいます。

私自身も同じでした。営業エリアの中には比較的大きな会社もありましたが、開業当初に契約できたのは従業員5名以下の零細企業ばかり。しかも、記念すべき1件目の契約は値引きを求められて、結局は月1万円という金額での契約でした。(社長とパート2名だけの小さな会社です)

開業から1年後、顧問契約は6社まで増えましたが、月額の合計はわずか9万円。2年が経過した時点でも、顧問契約は11件で月額20万円。顧問料の平均単価は約1万8千円と2万円を切っていて、「小さな契約しか取れなかった」という現実をまざまざと突きつけられました。

やはり、経験の浅い社労士がいきなり大きな会社と高単価の契約を結ぶのは難しいと痛感しました。振り返ってみれば、知識や実績が乏しかっただけでなく、自信のなさが態度や話し方ににじみ出てしまい、「この人に任せて大丈夫だろうか」と思わせていたのかもしれません。

それでも少しずつ契約数は増え、開業から3年が経った頃には、顧問契約は15件、月額の売上は38万円に。平均単価も約2万5千円まで上がり、以前より高単価の契約も取れるようになっていました。経験を積んだことで自信が生まれ、その自信が提案の仕方やお客様への伝え方に反映され、結果として評価にもつながったのだと思います。

最終的に、当初の目標にしていた月額40万円の顧問料売上は、約3年と少しで達成することができました。よく「社労士は食えるようになるまで3年かかる」と言われますが、私の場合はまさにその通りだったな、と今振り返って感じています。

「客単価を上げる」という戦略もあるが・・

契約数を増やすだけでなく、「客単価を上げる」という戦略もあります。たとえば、月6万円の顧問契約を目指すイメージです。同じペースで契約を取れるなら、6万円 × 8件で月収48万円。目標収入により早く届くことになります。

ただし、最初から高単価の契約を取ろうとすると、それに見合う実力や魅力が求められると感じます。

たとえば、開業前から実務経験や実績がしっかりあること、特定の分野で強みを打ち出せること、そして相談者から「この人なら安心して任せられる」と思ってもらえるだけの自信や説得力を持っていることなどです。

私自身のことを言えば、開業したての頃は経験も浅く、自信もまだ十分ではありませんでした。だからこそ、高単価契約を狙う戦略は現実的ではなかったんです。ですが、「自分はどの価格帯で契約を取っていきたいのか」を意識して、そのために必要な知識や経験を積み、自分の強みや専門性を磨いていくことは大切だと思います。

高単価を目指すなら、やはり顧客に納得していただけるだけの付加価値を提供する努力が欠かせません。

まとめ

開業社労士として安定した収入を得るためには、やみくもに動くのではなく、計画的な準備がカギになります。

  • 毎月必要な生活費をきちんと試算する
  • 固定費をできるだけ見直す
  • 顧問契約の目標数や単価から逆算してみる
  • 収支のバランスが取れる時期をシミュレーションする

独立には不安がつきものですが、数字に基づいた準備をしておけば安心感はぐっと高まります。ぜひ、自分のペースで無理のない開業プランを描いてみてください。

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